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2017年8月

2017年8月30日 (水)

ロバート・バー『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』

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しばらく前の新聞で、仏文学者の鹿島茂さんが書評を集めたサイト ALL REVIEWS を開設したことを知った。これに作家の逢坂剛さんがロバート・バーの『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』を取り上げた評が掲載されている。

本書は、〈我輩〉という一人称で書かれており、往年の保篠龍緒訳のアルセーヌ・ルパンものを思わせる、軽妙な語り口が心地よい。(中略)提示される謎と解決は、どれも古さを感じさせず、総じてルパンものより合理的である。(中略)昔ながらの、読書の楽しみを思い出させてくれる、佳味あふれる作品集である。

『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』は八篇からなる短篇集。書評のとおり痛快で洒落ていて、不思議と古さが感じられない。

八篇の中では「うっかり屋協同組合」The Absent-Minded Coterie がもっともよく知られ、エラリー・クイーンや江戸川乱歩が激賞し、数々のアンソロジーに収録されているとのこと。創元推理文庫の乱歩編『世界短編傑作集』でも「放心家組合」という題で取り上げられていて、前にいちど読んだはずなのだが、すっかり忘れていた。また、夏目漱石の『我輩は猫である』の中でも、雑誌で読んだ話として登場するというのだが、これについても記憶がない。

今の感覚では、全八篇のうち「うっかり屋協同組合」だけが突出した出来栄えという感じはしない。「銀のスプーンの手がかり」「チゼルリッグ卿の失われた遺産」などもすっきりまとまっている。

ロバート・バー、平山雄一訳『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』(国書刊行会、2010)
ダイヤモンドのネックレスの謎
シャム双生児の爆弾魔
銀のスプーンの手がかり
チゼルリッグ卿の失われた遺産
うっかり屋協同組合
幽霊の足音
ワイオミング・エドの釈放
レディ・アリシアのエメラルド

2017年8月28日 (月)

ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲 作品 81

Dvorakpianoquintet

ドヴォルザークのピアノ五重奏曲 作品 81 はメナヘム・プレスラーとエマーソン弦楽四重奏団の共演盤で聴いたことがあったのだが、そのときはこの曲の魅力は感じられずにいた。いつ終わるとも知れない果てしない緩徐楽章に閉口したのを思い出す。先に同じ演奏家たちのシューマン:ピアノ五重奏曲/四重奏曲を愛聴していたから、不思議な気持ちだった。

それからしばらくしてスヴャトスラフ・リヒテルとボロディン弦楽四重奏団にこの曲の録音があることを知り、もう一度聴いてみることにした。久しぶりのドヴォルザークはとても瑞々しく、あの緩徐楽章も曲全体の一番の聴かせどころになっていた。リヒテルたちの演奏に見られるゆったりしたテンポと旋律の歌わせ方がそう感じさせているだろう。

レコードの解説で村田武雄氏はこう述べている。

ドヴォルザークの音楽のなかに深くしみこんでいる、スラヴ的な民族色は、かれの作品を演奏する場合に、第一に考慮しなければならない特徴である。(中略)スヴャトスラフ・リヒテルといい、またボロディン弦楽四重奏団といい、いずれもソビエトの演奏家であるから、スラヴの血をもった、ドヴォルザークの音感を肌で実感しうる人々である。それが瑣末の問題よりはるかに曲の真実を再現するのに、代えがたい迫真力を与えている。

民族色が濃い音楽においてはたしかにそのとおりだろうなと思った。

Dvorak : Piano Quintet in A Major Op.81 (Victor)

Sviatoslav Richter, piano
Borodin Quartet
Moscow, 1983

2017年8月 8日 (火)

カーソン・マッカラーズ『心は孤独な狩人』

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カーソン・マッカラーズの処女作『心は孤独な狩人』を読んだ。

マッカラーズの小説は村上春樹の新訳『結婚式のメンバー』を除けば現在すべて絶版になっているが、『心は孤独な狩人』だけはなぜか電子書籍版が出ている。訳者は河野一郎となっているので、新潮文庫と同じ内容のようだ。

物語は少女ミックを中心に、同性愛者と思しき二人の聾唖者、カフェの主人、黒人医師、革命を夢想する男などによって展開される。ここでのミックは作者マッカラーズの分身と考えられる。

物語について訳者の河野一郎は、マッカラーズが出版社に書き送り創作奨学金を得たというこの作品の青写真に当たる資料を引用して、次のように解説している。

五人の孤独な魂の渇きと挫折が、均衡のとれた綿密なプランに従って「対位法的に組み立てられて」いる。(中略)「遁走曲(フーガ)におけるそれぞれの声部のように、主な登場人物は一人ひとりが完全なものであるが−−−−他の人物と対比され、編み合わされて、新しい豊かさを持つ」ように配置されているのだ。

物語の構造を音楽に喩えているのは、マッカラーズ自身がコンサート・ピアニストになる夢を持っていたことと切り離せないが、他のどのような解説にも増してこの小説の特徴と魅力を捉えていると思う。

カーソン・マッカラーズ/河野一郎訳『心は孤独な狩人』(グーテンベルク 21、2016)

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