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2017年5月

2017年5月14日 (日)

ヤナーチェクのピアノ曲

Arecollection_2

1970 年代初頭、日本コロムビアから出ていた音源が一斉に新興レーベルの CBS ソニー・レコードに移ったとき、ジョージ・セルとクリーヴランド管弦楽団の《新世界から》にボーナス・レコードが一枚追加され、これにヤナーチェクの《シンフォニエッタ》第一楽章が収められていた。これがヤナーチェクの音楽を初めて聴いたときで、金管の摩訶不思議な響きがとても新鮮だった。

しかし、その後、《タラス・ブーリバ》、《利口な女狐の物語》、弦楽四重奏曲などを聴いても、どれもつかみどころのない印象ばかりで、そのうちにこれらのレコードはすべて処分してしまった。

そうしたところ、図書館所蔵の音源を検索していたら、アンドラーシュ・シフが演奏するピアノ曲集があるのを知った。さっそく借りてきて聴いてみたのがこの CD。

《霧の中で》《草かげの小径にて》《思い出》など、題材が身近で、どれも短い曲ばかり。ロバート・コーワンという人が、「クリエイティブな才能を守る固い繭の中で無垢な子供のままでいることができたヤナーチェクの純粋性や感情豊かな率直さが伝わってくる」(小林誠一訳)と解説している。

ときどき思い出して聴いてみたくなる曲集。

Leos Janacek : A recollection (ECM)

In the mist
Sonate
On an overgrown path I
On an overgrown path II
On an overgrown path (Paralipomena)
A recollection

Andras Schiff (Piano)
January 2000

2017年5月 6日 (土)

堀江敏幸『音の糸』

Photo

著者初の音楽エッセイとのこと。演奏会よりもレコード音楽に関するエッセイが多く、普段もっぱら LP や CD ばかり聴いている自分にはとても身近に感じられる。

ある日、電車に乗ったら、入口近くにヘッドフォンをした若者が立った。彼が鞄から CD ケースを取り出した。これを左手に持ち、右手を鞄に入れてポータブル CD プレーヤーを操作し、それまでの CD を取り出し、左手のものと入れ替えた。この一連の動作を、手元に目をやらず、ずっと外の景色を眺めながら行う。データ用 CD に手書きされた曲名が《月に憑かれたピエロ》。いまどきポータブル CD プレーヤー、そしてこの曲名に感銘を受ける。(「昼の月」)

フリードリヒ・グルダが、書き溜めてきたノートを一冊の本『音楽への言葉』にまとめた。この中の《get that edge off!(その角をとれ!)》から。私は《ハーフノート》でアート・ファーマーと共演した。そのあとで彼は、ジャズのサークルでも普通にやるような「おい、すごいぞ君は」というような儀礼的な嘘はつかなかったのだ。その代り、もっと「角を研ぐようにしなよ!」といったのだ。この善意ある建設的な批評に感謝しつつ、僕は自分の中に入っていった。(「その角をとれ」)

リヒテルはその著書の中で、バッハの《平均律クラヴィーア曲集第二巻》から連想される風景を順々に語りながら、《第四番嬰ハ短調》の前奏曲に到って、突然、白いさんざしにまつわる父母の思い出に触れ、プルーストの一節を引いてこう述べている。「さんざしは、恵み豊かだ。しかし、その内面に入り込むことを許しはしない。何度演奏しても謎を解き明かすことのできない音楽に似ている。果たして私はこの前奏曲の謎を解き明かせるのだろうか」(「リヒテルとさんざし」)

音楽好きには格別のエッセイ集。

ネウマ譜の一部をあしらったカバーが美しい。

堀江敏幸『音の糸』(小学館、2017)

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