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2017年4月21日 (金)

丸谷才一編著『ロンドンで本を読む』

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丸谷才一の随筆を読んでいると、たまにイギリスの書評について書いたものにぶつかる。イギリスの書評がいかに程度が高くて、しかも楽しめるものであるかを力説しているのだが、そのたびに「なるほど」とか「そうだろうな」とか思うだけだった。実際にその書評を読んでいないのだから、仕方がない。

それではというので、書評そのものを翻訳し、それをまとめて一冊にしたのが本書というわけだ。

取り上げられているのは新刊にかぎらない。再販されたものがあり、英訳された外国の小説があり、写真集まである。それに、イギリスの書評は長さがまちまちで、かなり長い論文風になっているのもある。

内容はかなりむずかしいが、本質を射抜いて、ハッとさせられる箇所も多い。たとえば、村上春樹『象の消滅』の書評、リチャード・ロイド・パリー、小野寺健訳『わんさかワタナベ』はこんなふうである。

この滑稽で不気味な短編集には奥行きが欠けているとすれば、それはこれらの短編がぜったいに答えや慰めをあたえようとしないからである。この短編集の世界では、だれ一人満足していないし、本物とも思えない。洞察力も猜疑心も想像力も、役に立たないのだ。

本書で丸谷才一は次のように述べている。

対象である本を罵つて読者に快哉を叫ばせるのがよい書評だと思つてゐる人もゐるけれど、わたしに言はせれば、原則的には、さういふ本は取り上げる必要がない。大事なのは、読むに価する重要な本の重要性を、普通の読者に向けてすつきりと語ることなのである。

これはつまり、書評者がどの本を取り上げるのかが重要であるということなのだろう。

無意味な罵りやおためごかしとは一切無縁の一冊。

丸谷才一編著『ロンドンで本を読む』(マガジンハウス、2001)

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