« 2017年2月 | トップページ | 2017年4月 »

2017年3月

2017年3月19日 (日)

堀江敏幸『その姿の消し方』

Photo

留学生時代、古物市で見つけた 1938 年の消印のある古い絵はがき。廃屋としか見えない建物と朽ち果てた四輪馬車の写真の裏には、流麗な筆記体による一篇の詩が記されていた。やがて、一枚また一枚と、この会計検査官にして「詩人」であった人物の絵はがきが手元に舞い込んでくる――。

これが小説の発行元の紹介文。古書店で求めた本に書き込みがあったなどというのはよくある話にしても、古物市に絵葉書、それも宛名や通信文まで書き込まれたものまで売りに出されているということがあるのだろうか。

でも、とりあえず蚤の市はそういうところなのだとでもしておかなければ、読み進めることができない。これは、河岸に繋留された船に住むことになった話『河岸忘日抄』を読み始めたときのどうにも地に足の着かない感覚に似ている。

こうした浮遊感が最後まで消えずに小説は終わる。

現実味の乏しい設定をしつらえ、登場人物に動きを与える。それでいて、語り口はあくまで静か。実験臭など微塵も感じさせない。やはり、最前線の小説家だという気がする。

堀江敏幸『その姿の消し方』(新潮社、2016)

« 2017年2月 | トップページ | 2017年4月 »

2017年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31