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2017年2月10日 (金)

小沼丹の連作短篇集『黒と白の猫』

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小沼丹には大寺さんという人物を主人公にした一連の短篇集がある。これらは幾つかの随筆集に分散されて収録され、現在そのままの形で復刻されている。それが最近になってこの小説群が一冊にまとめられ、『黒と白の猫』として刊行された。

ちょうどバラードの『ヴァーミリオン・サンズ』やヘミングウェイの『ニック・アダムズ物語』のような体裁になったのだが、大寺さんものが連作短篇集として一冊にまとめられた意義はやはり大きいし、それにも増して、本書の刊行にあたって旧仮名遣いがそのまま採用されたのは、小沼丹の作品を愛好する読者にとって何よりの喜びである。

たとえば、『タロウ』の出だしはこんな具合である。

その頃、大寺さんは病気で臥てゐた。
三方を本で囲まれた部屋の窓際にベツドを置いて、毎日その上で過した。病人の所にはいろんな人が来て、いろんな話をして行く。大寺さんと同じ病気で大きな空洞があつたけれども、いまぢやこの通り、と云ふ人も何人かある。
——ほんとかな?
——ほんとですとも、尤も、と相手はちよつと考へ込む。尤も他の奴は大抵死んぢやつたけれども……。
それから、話が妙な具合に進展したのに気附いて、どうぞお大事に、と帰つて行くのである。

小沼丹の作品の淡い描写やとぼけた感じなどはゆったりした時間感覚と切り離せないのだが、それを醸し出しているのが旧仮名遣いであるような気がするのである。

小沼丹『黒と白の猫』(未知谷、2005)
黒と白の猫(『懐中時計』)
揺り椅子(『懐中時計』)
タロウ(『懐中時計』)
蝉の脱殻(『懐中時計』)
古い編上靴(『銀色の鈴』)
眼鏡(『藁屋根』)
銀色の鈴(『銀色の鈴』)
藁屋根(『藁屋根』)
沈丁花(『藁屋根』)
入院(『木菟燈籠』)
鳥打帽(『木菟燈籠』)
ゴムの木(『木菟燈籠』)

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