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2016年5月15日 (日)

J・M・シング『アラン島』

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みすず書房の叢書「大人の本棚」はこれまでに岩本素白、小沼丹、スティヴンスンなど何冊か読んだが、そのどれもが静かで深々とした味わいがあり、すっかり気に入ってしまった。そんなわけで、もう一冊また読んでみることにした。

ジョン・ミリントン・シングという作家は初めてだ。文学を志しながら悶々としていたシングは、友人の詩人イェイツにすすめられてアラン諸島に渡った。そこでの体験がこの本にまとめられている。

アラン諸島を訪れたシングは島の人たちや暮らしにすっかり惚れ込んだという。そのことはこの紀行文の随所に表れているところだが、本書は同時にまた、土地に馴染み、そこの人たちにすんなりと受け入れられたシング自身の人柄も映し出しているようだ。

この本にはところどころにアラン諸島の生活を描いた挿絵が収録されていて楽しい。これは、先の詩人イェイツの弟、ジャック・B・イェイツのものとのこと。

アイルランドは僕には想像すらできない土地だ。この本を読みながら、僕は、村上春樹の『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』の中の、いかにも風の強そうな荒涼たる台地の写真を思い出していた。

本書は長らく昭和 12 年刊の岩波文庫版で読み継がれてきたという。今回の新訳にあたって、訳者の栩木氏が次のように述べているのが興味深い。この叢書の特徴を示しているようでもある。

シングのテクストは百年まえの紀行文だが、原文に付着した時代の錆をだましだまし、ていねいに磨きをかけてみたら、にわかに輝きを増しはじめ、人物たちがいきいきと躍動しはじめたので、とても驚いた。

J・M・シング著 栩木伸明訳『アラン島』(みすず書房、2005)

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