テディ・ウィルソンのブランズウィック・セッション
その昔、CBS ソニー・レコードに伊藤潔さんというプロデューサがいて、一時期、同社から彼が制作したクラシック・ジャズのレコードがたくさん発売されていました。この『ザ・テディ・ウィルソン』もその中のものです。企画に参加したのは批評家の油井正一、粟村政昭、大和明の各氏です。
この種のレコードを制作するにはたいへんな苦労があるようです。米コロンビア本社も戦時中に原盤を供出してしまっていたことから、提供を受けたのは SP をスタンパーにして作成されたアセテート盤で、傷の入っているのも多かったといいます。そのような盤は、国内の蒐集家から借り受けた SP などに替えたりして、準備に一年もかかってようやく世に出ることになったのです。
ブランズウィックのセッションは全部で 133 のトラック、別テイクを含めて 132 曲あって、この二枚組のレコードにはこの中から 33 トラック、32 曲が収められています。
テディ・ウィルソンがブランズウィック・レーベルに残した一連の録音は「ジューク・ボックスのために流行歌曲をパンチを効かせてジャズ化する。編成は七、八人。編曲料はなし」という方針のもとに始められたようです。このような商業的な、しかも SP の 3 分という時間的にも制約の大きい中で、参加した音楽家たちはひたすらスイングしています。
集まった人たちはいずれもスイング時代の名人ばかりで、32 曲のどれもが今もってその輝きを失わない名演です。各人に与えられたソロ・スペースはほとんどが一コーラスと短いものですが、少しも窮屈な感じを受けないのは存分に歌いきっているからにほかならないけれど、こういうのを「いい仕事をしている」というんだろうなあ。
たとえば『君微笑めば』。
4 小節の簡単なイントロのあと、まずベニー・モートンのレイジィなトロンボーン・ソロでテーマを 1 コーラス。このときにバック・クレイトンのトランペットとレスター・ヤングのテナー・サックスのリフに注目。これがテーマの単調さを救って、キックを与えています。
次に、ビリー・ホリディがメロディを大胆にフェイクして 1 コーラス。ここで、クレイトンがミュート・トランペットで付けるオブリガートが最高。明快で流麗なタッチのウィルソンが続けて 1 コーラス。
いよいよ、ヤング。元ある曲をバラバラに分解し、もう一度組み立て直して別のメロディを与えたような彼のテナー・サックス・ソロはまったく余人をもっては代えられない彼独自の世界。これが 4 分の 3 コーラス続き、最後の 8 小節をクレイトンのオープン・トランペットが輝かしいテーマを奏して終わります。
彼らを支えているのは、当時のカウント・ベイシー・オーケストラのリズム・セクションの 3 人、フレディ・グリーンのギター、ウォルター・ペイジのベース、ジョー・ジョーンズのドラムス。
これで約 3 分の演奏となるのですが、嵌め込み細工の感じを微塵も与えないのはほとんど奇跡としか言いようがない。
この演奏に対して「これはいわば職人の手仕事であって、音楽とか芸術とは言えない」などというご意見もあるかもしれない。そう言われると、僕は「たしかにそのとおりだ」と答えるしかないけれど、これが僕らを見知らぬ世界に確実に連れていってくれるジャズであることだけは確かだなあと思うのでした。
The Teddy Wilson (CBS SONY)
Blues in C Sharp Minor
Mary Had a Little Lamb
Too Good to Be True
Warmin' Up
Sweet Lorraine
Sugar Plum
Christopher Columbus
All My Life
Rhythm in My Nursery Rhymes
Why Do I Lie to Myself about You
Guess Who
Here's Love in Your Eyes
Sailin'
Right or Wrong
Tea for Two
I'll See You in My Dream
He Ain't Got Rhythm
Fine and Dandy
I'm Coming Virginia
Yours and Mine
I'll Get By
Mean to Me
I've Found a New Baby
Coquette
Ain't Misbehavin'
Honeysuckle Rose
Just a Mood (Blue Mood) Part I, II
You Can't Stop Me from Dreaming
When You're Smiling
Don't Be That Way
If I Were You
Jungle Love
Bobby Hackett (cornet)
Dick Clark (trumpet)
Buck Clayton (trumpet)
Roy Eldridge (trumpet)
Gordon 'Chris' Griffin (trumpet)
Harry James (trumpet)
Jonah Jones (trumpet)
Frankie Newton (trumpet)
Irving Randolph (trumpet)
Cootie Williams (trumpet)
Benny Motron (trombone)
Buster Bailey (clarinet)
Jerry Blake (clarinet, alto sax)
Harry Carney (clarinet, baritone sax)
Benny Goodman (clarinet)
Tom Macey (clarinet)
Vido Musso (clarinet, tenor sax)
Rudy Powell (clarinet)
Prince Robinson (clarinet, tenor sax)
Archie Rosati (clarinet)
Pee Wee Russell (clarinet)
Cecil Scott (clarinet)
Johnny Hodges (alto sax)
Hilton Jefferson (alto sax)
Willie Smith (alto sax)
Chu Berry (tenor sax)
Ted McRae (tenor sax)
Gene Sedric (tenor sax)
Ben Webster (tenor sax)
Lester Young (tenor sax)
Teddy Wilson (piano)
Lionel Hampton (vibraharp)
Red Norvo (xylophone)
Dave Barbour (guitar)
Freddie Green (guitar)
Bob Lessay (guitar)
Lawrence Luicie (guitar)
John Trueheart (guitar)
John Kirby (bass)
Allan Reuss (guitar)
Artie Bernstein (bass)
Israel Crosby (bass)
Stan Fields (bass)
Harry Goodman (bass)
Al Hall (bass)
Grachan Moncur (bass)
Walter Page (bass)
John Simmons (bass)
Jonny Blower (drums)
Sidney Catlett (drums)
Cozy Cole (drums)
Jo Jones (drums)
Gene Krupa (drums)
Ella Fitzgerald (vocal)
Billie Holliday (vocal)
Helen Ward (vocal)
Midge Williams (vocal)
Nan Wynn (vocal)
1935-1938, NYC, Chicago, Hollywood
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